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ピッチから転げ出た選手にドクターが駆け寄る。
若い選手の顔が苦痛に歪んでいる。
ドクターからは大丈夫のサインが出た。
選手は動けない。
日頃は温厚で知られるコーチが、選手に怒鳴りつける。
聞こえないはずの声がはっきり聞き取れた。
コーチが、言うはずのない名前を出した。
あいつ。
若者の顔に、失われていた生気と闘志が甦る。
選手がピッチに戻ると、コーチは頭を冷やすかのようにロッカールームに向かった。
なぜあんなことを言ったのか訊ねるなら今しかない。
私は、少し片足を引きずって歩くコーチの後を追った。
「ルール違反だぞ」
それは承知している。
知りたいだけだ。
5分だけでいい。
記事にはしない。
なぜあいつの名前が。
「ちょうど5年前、あいつのつまらないファウルで、俺は負傷した。
結局その怪我が元で現役を引退することになった。
「いや、技術や体力ではまだ完全に自分の方が勝っていると思っていたのだよ。
ところが避けきれなかった。
「予想以上にあいつが素速く、そして俺の身体が衰えていたのだ。
そのことが悔しかったんだ」
ゲームの行方も忘れて、コーチは語り続けた。
こんな日には、ピッチにあいつの姿が見えるのだろうか。
あいつが戦地に旅立って3年になる。
あいつがピッチに戻ることはもうない。
→あいつ

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