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平田弘史『血だるま剣法』

小学校低学年のころ、しんちゃんという友達がいた。 自転車に乗る練習などしたのはしんちゃんの手ほどきによるもので、ずいぶん世話になった。

しんちゃんの得意は、映画やマンガを語ることだった。
こちらが観ていない映画や読んでいないマンガを、実におもしろく再現してくれるのだ。
東宝の怪獣映画や、クレイジーキャッツの映画は、しんちゃんのおかげで自分で観たような気になれた。

しんちゃんでうらやましいのは、お兄ちゃんがいたことだ。
他の学区へ引っ越してしまってからも時々遊びに行ったのだが、ビートルズが来るんだと興奮していたのは、お兄ちゃんの影響だったろう。
『ガロ』を知ったのも、しんちゃんのお兄ちゃんが買っていたからだ。

しんちゃんがリアリズム描写で語ってくれた数々のマンガは後にいろいろな形で読むことができたのだが、一つだけどうしても読むことができないマンガがあった。
それが、平田弘史さんの『血だるま剣法』である。

両腕両脚を切り落されながらも、まさに血だるまとなって殺戮を続ける猪子幻之助。
殺害した者の額には、「幻」の血文字が刻み込まれる。
強烈な印象を残しながらも、結局そのマンガを読むことはできなかった。
掲載された貸本雑誌は回収され、四十年以上も封印されていたからである。

昨年の秋、青林工藝舎からその『血だるま剣法』が復刊された。
原稿が手に入らないため、山松ゆうきちさん所蔵の本を解体してデジタル修復したようだ。
リメイク版の『おのれらに告ぐ』と、呉智英さんによる詳細な解説が付いている。
部落解放同盟による抗議と、版元日の丸文庫の対応に関しては呉智英さんの分析が今最も正確なものだろう。

おかげで忘れていたことをいくつも思い出した。
マンガ批評の「石子順造」さんとよく似た名前の、「石子順」さんという怪しい評論家がいたこと。
山松ゆうきちさんや山上たつひこさんが日の丸文庫の編集者だったことなどである。
山上さんが『血だるま剣法』のパロディを作品中に描いていたことは知らなかった。

『血だるま剣法・おのれらに告ぐ』
 平田弘史著
 監修及び解説 呉智英
 青林工藝舎
 A5判並製 本文213p.
 2004年9月25日発行
 定価:本体1400円+悪税
『血だるま剣法・おのれらに告ぐ』


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